DESIGN STORY

コラム:久米設計が考える環境配慮建築(1)

脱炭素社会を目指して:
空間性と省エネルギーを
両立する
設計の考え方

第2環境設備設計部 統括部長 織間 正行

いま求められる、建築の脱炭素化

温暖化の抑制と温室効果ガスの排出量削減は、世界的な課題となっています。菅首相(当時)は2020年10月の所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言し、2021年4月に「2030年までに2013年比温室効果ガス排出46%減」を表明しました。2021年8月に国連の機関であるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が発表した第6次評価報告書では「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことに疑う余地がない」と、温暖化の要因が人間活動にあることが明言されました。

脱炭素社会を実現するためには、CO2に代表される温室効果ガスの排出量を大幅に削減することが必須です。ところが国内のCO2の約3割は建築の運用を通じて排出されており(※1)、建築は環境に対し強い影響を及ぼします。建築による環境負荷の低減を目指し、政府は2014年に「2030年までに新築建築物の平均でZEB(※2)の実現を目指す」とする政策目標を掲げ、「ZEBロードマップ」を公表しています。

※1:環境省と国立環境研究所による2019年度(令和元年度)の温室効果ガス排出量(確報値)より各部門のエネルギー起源二酸化炭素(CO2)排出量の内訳を参照すると「業務その他部門(18.8%)」と「家庭部門(15.5%)」の合計が34.3%となる。

※2:環境省ZEB PORTALによればZEBは「Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、「ゼブ」と呼びます。快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のことです。」と説明される。また省エネルギー+創エネルギーの程度に応じ、ZEB Oriented、ZEB Ready、Nearly ZEB、ZEBと定義される。

300床以上の急性期病院で日本初のZEB Readyを達成

建築が生涯に消費するエネルギーの総量は、その設計次第で大きく変動します。久米設計は状況を真摯にとらえ、教育施設、庁舎、病院など多様な施設の設計を通じて建築物の低炭素化の推進に貢献してきました。

2019年竣工の「高知赤十字病院」では、眺望や自然採光を確保するなど高い居住性を実現しながら、300床以上の急性期病院では日本初のZEB Ready(従来比でエネルギー消費量50%減)を達成しています。高断熱・高遮熱を実現した高い外皮性能と空調・衛生・電気設備において確立された省エネルギー手法を徹底的に採用した、いわば“普及型ZEB”の試作品と言えます。
年間一次エネルギー消費量削減率は、運用開始1年目で55.2%、2年目で54.9%という結果を得ています。

設計の工夫で、快適性と省エネ、運用のベストバランスを探る

2020年竣工の「瀬戸市立小中一貫校 にじの丘学園」は、設計の工夫で自然エネルギーの活用を図り、機械設備の性能に頼らずにZEB Readyを達成した施設です。ハイサイドライトを立体的に配置することで光や風を大空間に取り込み、大きな開口部に庇を設けて高性能なガラスを導入することで、開放感と快適な温熱環境の両立を図っています。このような設計の工夫は、快適性の確保のみならず、必要とされる空調設備の能力を小さくできるため、初期投資や運転コストの抑制にもつながります。

  • ZEB Readyよりも高いレベルのNearly ZEBを達成した、2020年竣工の「愛知県環境調査センター・愛知県衛生研究所」(実施設計:大成建設)ではさまざまな先端技術を導入していますが、あわせてあらかじめ建築計画的にも省エネルギーを追求しています。建物を東西に細長い形状(東西軸)とすることで、窓から建物奥深くまで届く朝日や西日の影響を受けにくくし、日射による室温上昇を抑え、冷房用エネルギー消費を抑制しています。2020年度の実績では、省エネルギーで67%、創エネルギーで31%、合計で98%の一次エネルギー消費量を削減しています。

  • 大事なのは多角的に技術や設計を検討し、建築に導入すること

    このように、久米設計による環境設計は、設計の工夫と最新技術の導入を並行させた、多角的な検討姿勢が特徴です。お客様に対しても、まずは導入可能な手法の一覧を示し、そこからプロジェクトの特性や条件にあわせて最適な組み合わせを提案していきます。いわば創設者・久米権九郎が目指した「技術とデザインの融合」と通じる考え方です。

    建築への自然エネルギーの活用がさらに進めば、これまでとは建築のかたちや街並みが変わっていくと考えています。建築に留まらない都市的な視点で捉えることが重要です。環境配慮の意識の高まりをきっかけに、建築や都市がより快適なものへと変わっていくよう、設計に取り組んでまいります。

    一方、これからの社会にはZEBがスタンダードとして求められますが、利用者に“我慢を強いる省エネルギー”は長続きしません。ZEBには徹底した省エネルギー・省資源と快適性の両立が必要と考えます。久米設計は優れた意匠と建設コストや維持管理に配慮した、トータルバランスに優れた建築を提供していきます。

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