DESIGN STORY

コラム:久米設計が考える環境配慮建築(3)

「熱を捨てながら
熱を作るのは止める。」
2024 ASHRAE 世界最優秀賞
帯広厚生病院

  • 2024年世界最優秀賞の評価

    カーボンニュートラル推進の先頭に立つASHRAE(アメリカ暖房冷凍空調学会)は2024年の技術表彰制度の世界最優秀賞に帯広厚生病院を選びました。
    日本の医療施設では初の受賞です。
    ASHRAEは1894年に設立された暖房・空調・冷凍の国際的学会で、50,000名以上の会員がおり、世界の設計基準や運用基準は、このASHRAE基準が元になっています。
    現在のアメリカやヨーロッパでの暖房の燃料はガスが主体ですが、カーボンニュートラル実現に向けて、ガスからヒートポンプによる電化暖房への切り替えを推進しています。
    ASHRAEは、帯広厚生病院のシステムがガス消費量削減とCO2排出量削減に成果を上げたことを高く評価したと推測します。
    このコラムでは、このガス燃料削減に向けた取り組みと至る経緯を取り上げます。
    » ASHRAE TECHNOLOGY AWARDS PROGRAM

ガスの燃焼を抑える
熱回収システム

医療施設内には冷却が必要な部屋や設備が多くあり、その冷却装置から大量の排熱が大気中に放散されています。
一方で、給湯加熱や暖房に必要な熱を必要としています。帯広のような寒冷地では、従来はボイラー等がガスや油を燃やすことで熱を得ることが主流でした。(左図上)
帯広厚生病院では、排熱を加熱源として捉え、熱回収ヒートポンプ(熱回収HP)と呼ばれる機械で熱を集めて給湯加熱や暖房に使い、ボイラー等のガスの燃焼を抑制しようと考えました。(左図下)
冷却装置の排熱利用も、医療機器、冷蔵庫、サーバー室、電気室などすべての冷却排熱を徹底利用するという日本初の試みです。
暖かい室内の空気も外に排気されますが、その排気される空気も取り入れる外気の加熱源に使っています。
排気熱利用は、室内からの排気(還気)と外気を熱交換する顕熱交換器を風量に応じて空調機に組み込むか、1台の顕熱交換器に複数の空調機を組み合わせる方法を使い分けています。(右図)
現存する汎用品を組み合わせている工夫ですが、世界の誰でもできることです。
この「世界の誰でもできるシステムである。」ことが地球全体のカーボンニュートラル推進には重要です。

  • 熱回収ヒートポンプの課題の克服

    熱回収ヒートポンプ(熱回収HP)の運転では冷水と排温水のどちらかの供給温度しか固定できないという課題があります。冷水供給温度を8℃で固定としても、排温水温度は冷房需要に応じて変化します。(右図上)
    寒さが厳しい地方において暖房用温水温度が不安定であるのはトラブルを生じる原因となるので、熱回収HPからの排温水配管を暖房用温水系に直に接続することを避け、熱交換器を介してヒートポンプからの排温水配管を間接的に接続しました。(左図)
    排温水の熱で暖房の還り温水を昇温させ、昇温後の温度が暖房に必要な温水温度に不足する時にはボイラーがさらに昇温するシステムとし、ボイラーの出口温度すなわち暖房用温水温度を安定させました。(右図下)
    この工夫も評価を受けた点と推測しますが、「世界の誰もができる技術」です。

    熱回収ヒートポンプ(熱回収HP)の運転では冷水と排温水のどちらかの供給温度しか固定できないという課題があります。冷水供給温度を8℃で固定としても、排温水温度は冷房需要に応じて変化します。(下図左)
    寒さが厳しい地方において暖房用温水温度が不安定であるのはトラブルを生じる原因となるので、熱回収HPからの排温水配管を暖房用温水系に直に接続することを避け、熱交換器を介してヒートポンプからの排温水配管を間接的に接続しました。(上図)
    排温水の熱で暖房の還り温水を昇温させ、昇温後の温度が暖房に必要な温水温度に不足する時にはボイラーがさらに昇温するシステムとし、ボイラーの出口温度すなわち暖房用温水温度を安定させました。(下図右)
    この工夫も評価を受けた点と推測しますが、「世界の誰もができる技術」です。

  • 受賞は多くの方々の協力と
    努力の賜物

    今回のASHRAE世界最優秀賞の受賞は、私一人の努力でできたことではありません。また、今回の「冷却排熱を温水に回収するシステム」は当初から所定の性能を発揮したわけではありません。
    学識経験者やエネルギーサービス事業者の方々に初年度である2019年の動作を検証して頂き、多くアドバイスを受け、的確なチューニングをしたことで、2020年冬の排熱回収率はほぼ100%となりました。(右図)
    運用改善によって熱回収HPからの空調温水の供給割合は2019年が33%でしたが2020年には58%に増加し、給湯用予熱の供給割合は2019年が17%であったが23%に増加しました。(左図)これらの努力が大きな恵みを受けました。

    今回のASHRAE世界最優秀賞の受賞は、私一人の努力でできたことではありません。また、今回の「冷却排熱を温水に回収するシステム」は当初から所定の性能を発揮したわけではありません。
    学識経験者やエネルギーサービス事業者の方々に初年度である2019年の動作を検証して頂き、多くアドバイスを受け、的確なチューニングをしたことで、2020年冬の排熱回収率はほぼ100%となりました。(下図)
    運用改善によって熱回収HPからの空調温水の供給割合は2019年が33%でしたが2020年には58%に増加し、給湯用予熱の供給割合は2019年が17%であったが23%に増加しました。(上図)これらの努力が大きな恵みを受けました。

世界の国々のカーボンニュートラル実現へ貢献

下のグラフは熱回収HPが1年を通して優先的にベース運転を行うことで冷熱と温熱を供給し、不足時には他の熱源を併用運転していることを示しています。「熱を回収して、ガスの燃焼を抑える。」という設計意図通りです。先のチューニングの成果です。
ガス消費量が暖房と給湯分を合わせて約450,000Nm³/年が削減され、CO2削減量は約800t- CO2となり高いCO2排出抑制効果を示しました。
電気とガスを合わせたCO2排出量は0.099t-CO2/m²であり、国内大型病院のデータの排出量0.120t-CO2/m²より低い値となりました。
4月から10月にかけては、熱回収HPだけで90%以上の暖房用温熱を供給しています。
11月から3月の1日の最低外気温度の平均が0℃を下回る時期には、熱回収HPの他にボイラーなどが稼働しています。
暖かい地域で冷房装置の排熱を利用した熱回収システムを採用すれば、他の熱源機器をほとんど使用せずに暖房や給湯予熱用温熱の大部分を供給可能です。世界の国々のカーボンニュートラル実現へ貢献できます。

  • 熱を捨てながら
    熱を作るのは止める

    2023年のASHRAEのメンバーが集う冬季大会にて、ガスなどの化石燃料での暖房や給湯を止めて電化を推し進めにはどうしたらよいかを真剣に議論しているアメリカやイギリスの多くの人々の姿を目にしました。
    「私が帯広で実現したことが、役に立ちませんか?あなた方が進めようとしていることの一つはこのようなことですよね。」と思ったことがASHRAEの技術表彰制度に応募した動機です。
    建築設備の分野でのカーボンニュートラル推進には、「熱を捨てながら熱を作るのは止める。」、「ガスの燃焼を極力抑える。」と言う技術が、「世界の誰でもできる技術。」となることが重要です。
    世の中には使われずに捨てられている多くの排熱があります。
    今回の受賞を通じて熱回収システムが普及し、CO2削減に貢献することを願っています。

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