壁面収納式担架「rapid rescue(ラピッドレスキュー)」は建築設計のシーンから生まれた新しいプロダクトデザインです。2021年のグッドデザイン賞において「ベスト100」に選出、加えて特別賞の「グッドフォーカス賞」を受賞しました。
開発のきっかけは市庁舎の設計の中で「エントランスホールに担架を設置してほしい」という要望でした。担架は「みんなが認識出来る場所」に設置することで、迅速な対応が可能となります。一方で、現状の担架は公共の場に設置することを想定しておらず、裏方に露出で置かれたり、倉庫にしまわれており、緊急時に迅速な対応ができない状態にあることに気がつきました。
現状の担架が持つ課題を解消するべく、自ら新しい担架の在り方を考えました。目指したのは「壁に収納できる」「シンプルでコンパクトな担架」です。壁に隠蔽して収納することで、裏方ではなくパブリックな場所でも違和感なく設置できると考えました。
収納方法として工夫した点は担架をボックスに入れて壁に埋めこむのではなく、担架自体をそのまま折りたたんで壁に埋め込む形です。担架自体が壁面に見える形としコンパクト化を実現しました。
担架が収納されている姿は、極限までシンプルな意匠としています。下部は、持ち手部分が隙間となって取り出しやすい形状となっています。
グリップを丸く扁平させ、荷台布を間に挟むことで、建築壁として一般的な100㎜の下地に納まる奥行きを実現しています。枠は折り曲げてシャープにし、サイドカバーが化粧として壁面に現れます。サイドカバーは荷台布を固定する共に、床置きの足にもなっています。
担架は操作性と安全性の確保が必須です。すなわち「単純なアクションと軽量で安全な構造」を両立する必要がありました。取り出し方はシンプルなアップ&プル方式としています。持ち上げて,引き出すという単純な動作です。取り出した後は、ストッパーを留めて簡単に広げることができます。グリップは、アルミの押出材を採用し、軽さと強度を両立させました。二人持ちと四人持ちの両方において、荷重が指の関節にしっかりとかかる形状としています。収納時と使用時です。持ち手、カバーなどそれぞれのパーツが、両方の場面において機能性と意匠性を融合させています。
日常的に使用することの無い担架ですが、いざというときに担架無しで人を運ぶことは大変困難です。ラピットレスキューにより、「倒れた人を運ぶ」という機能が、裏方ではなく「すぐそばにある環境」を実現し、みんなが安心できる社会をつくりだします。