DESIGN STORY

コラム:久米設計が考える環境配慮建築(2)

建築があるべき姿を目指して:
ZEBの実現と災害から
人々を守るLCBの融合

ZEBの必然性 
災害から人々を守るLCB

我が国は、エネルギーを輸入に頼らなければいけません。エネルギー自給率は、他のOECD諸国と比べても低い水準です。
自給率が低いのだから、エネルギー消費量が少ない建物を設計するのは当然なことと考えます。
現在の建築建材や設備の技術と、蓄積してきた設計手法を巧みに組み合わせることで、ZEBの実現が容易になります。
このコラムでは、ZEBを実現した実例とその手法の一部を紹介していきます。

久米設計が展開する「LCB」(Life Continuity Building)というプライベートブランドの建築設計基準には、「途絶したライフラインの中長期自立確保」という 要素があります。エネルギー消費量が少ないZEBは、ライフライン途絶時でも建物機能を低下させない強靭性をもつと考え、積極的にZEBの推進を行っています。

ZEBの実現 設計プロセス

建築物において、エネルギー消費量が大きい「空調設備」、「照明設備」、「換気設備」のエネルギー消費量の削減ポイントは以下となります。

空調設備のエネルギー消費量の削減

  1. 開口部での日射取得熱の抑制と適正な断熱の選定によって熱負荷を削減
  2. 建物の使用条件を詳細に分析して空調するゾーニングを決定
  3. 負荷計算や空調システム及び機器選定での工夫

照明設備のエネルギー消費量の削減

  1. 適正な照度と照明器具の選択による消費電力の低減
  2. 必要な個所に点滅を行う照明制御

換気設備のエネルギー消費量の削減

  1. 適正な換気量の設定
  2. ダクト経路の最短化によるダクト静圧の低減による動力の低減
  3. 適切な量の空気を搬送する換気制御
  • ZEBの実現
    水戸市庁舎 嘉麻市庁舎

    水戸市庁舎では、南面にバルコニーを配し、東西面は開口部を制限することで空調負荷を抑制しています。
    潜熱と顕熱を分離したデシカント外気処理空調機の導入と室内CO2による外気量制御の採用。外気冷房や自然換気を積極的に行える「呼吸する外壁」の採用や、ピットを利用した外気取入れを行うなど、基準一次エネルギーに比べて69%削減しています。

    嘉麻市庁舎では、コンパクトな正方形平面と階高の圧縮により外皮面積を最小化し、貫流熱負荷を低減しています。
    また、日射負荷の大きな西面にコアを配置するとともに、構造体が外部に張り出したアウトフレームのファサードデザインとすることで、水平ルーバー(扁平梁)と竪ルーバー(扁平柱)の効果により夏期の日射を抑制しています。

    嘉麻市庁舎の『呼吸する外壁』は、様々な方角から吹く風を室内に取り込み効果的な自然換気を行うペリメーターシステムです。アウトフレームのファサードデザインは自然換気を行う際のウィンドキャッチの役割を担い、建物中央のエコボイドへ自然の風が抜けていきます。

ZEBの実現 海城学園新理科館

海城学園新理科館は、東西と南に面する教室に採光に必要な大きな開口部を設けながらも、ZEB Readyを達成した好例です。
縦ルーバーを巧みに配置して日射遮蔽を行い、ガラスには高性能Low-eガラスを採用し、空調負荷を削減しています。
空調機器の選定においては、学校のカリキュラムを分析し、教室の同時使用率を考慮することで、必要最低限の容量としています。
外気の取入れ時には室内排気との熱交換を行い、外気の温度調整に必要なエネルギーを削減しています。
階段教室には床吹出し空調を取入れ、居住のみを空調することで部屋全体の空調に比べてエネルギー消費を減らしています。
また排気はそのまま外には捨てず、地下階の廊下に開放した後に電気室や倉庫の換気に利用し、最後までエネルギーを有効活用しています。

LCBの実現 自然エネルギーの活用例:呼吸する外壁

停電時に発電機燃料だけで執務を行う場合において室内環境の快適性を損なわないためには、外気を適切に取り入れる工夫が重要です。
水戸市庁舎や嘉麻市庁舎では「呼吸する外壁」と称した多機能な外壁のシステムを構築し、夏や冬のエアバリアモード、中間期(春と秋)での外気冷房モードや自然換気モードといった3つの運転モードを柔軟に切り替えて運用できます。
水戸市庁舎(左)では、床吹出用ファンコイルユニットに切替ダンパーを組み合わせ、嘉麻市庁舎(右)では、ペリーメーターファンに切り替えダンパーを組み合わせています。他の庁舎建築でも適用可能なシステムです。

LCBの実現 自然エネルギーの活用:大地の熱

少ないエネルギーで快適な室内環境を実現するためには、夏の熱い外気や冬の冷たい外気を、自然の力で冷やしたり温めたりする工夫が必要です。水戸市庁舎(左)や愛知県環境調査センター・衛生研究所(右 以下 センター・研究所)ピットを通じて外気を取り入れています。
水戸市庁舎では夏の30℃以上の外気が22℃まで低下しています。
センター・研究所では夏期の35℃の外気を24℃に冷却し、冬期の2℃の外気を14℃に加熱しています。

久米設計が考える
環境配慮建築

今回のコラムでは、ZEBの実現に至る手法とZEBの実現例といくつか紹介していきました。
今やZEBを「さりげなく実現する時代」です。今後は、街中に多く建っている「テナントオフィスビル」での事例や完成していくプロジェクトを紹介していきます。
LCBに関して、今回は「空気」を主に取り上げましたが、室内環境にとって重要な「光」を忘れてはいけません。自然光の効果的な利用や、効率的な照明や照明制御を取り上げます。

建築が関わる温室効果ガス(GHG)には、消費する電気やガスに由来するGHG(Operational Carbon) と、建材の製造や建築工事そして建物の解体に絡むGHG(Embodied Carbon)があります。Embodied Carbonを削減するためには、建物の構造の在り方や建材の選択、廃材の積極的な利用を考える必要があります。
久米設計は、様々な知見を駆使して「人と生き物に幸せをもたらす建物」を目指していきます。

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