国立アイヌ民族博物館は北海道白老町のポロト湖を中心とする民族共生象徴空間「ウポポイ」の中心施設として開館した。ポロト(湖)はその周囲を自然林と山の稜線に囲まれ、水と緑の豊かな環境をもち、その稜線が途切れて街とつながるところが博物館の立地であった。
アイヌの歴史は永く、その文化は地域ごとに個性があり、多様な文化全体からアイヌを象徴する建築のすがたを求めることは難しかった。ただ、共通していたのは自然の恵みを活かし、ともに生きてきたアイヌの人たちの知恵であった。暮らしの道具や衣類、住居などは身近な自然のものから作られ、それら道具から動植物、自然現象まで自然と対話してきたことを学び、この博物館も自然とともにあるようなすがたを模索することで、アイヌの精神に応えたいと考えた。
博物館は延べ面積8,600 ㎡あり、水害対策により2階に重要な展示室と収蔵庫を配置したことで、1階の基壇に支えられて2階が大きく張り出す、高床式のアイヌの倉「プ」様の形となった。
特徴的な2階を緩やかに変形するチタン合金の一文字葺きで一体的に包み、緑と空を映しこみ、時と共に変幻する表情を見せるようにした。長大な外形は山の稜線とつながり、同時に、湖畔に伸びる姿により、湖を中心にすり鉢状に広がる象徴空間を包み込み、アイヌの世界観に引き込むようにした。
博物館の入口には壁面にアイヌ家屋の三脚を現す「ケトゥンニ」のロゴマークが施され、玄関はゴザ模様のレリーフが縁取り来館者を迎える。
内装にはアイヌの服飾にも使われた藍色のクロスを使い、各所にアイヌの文様が記され、サインもアイヌ語を第一言語として表示している。
2階に設けた「パノラミックロビー」からは「ポロト(湖)」を中心とした「ウポポイ」全体が見渡すことができる。
建物は長辺約130m、短辺約40mの平面形状であるが、2階の床が4周に渡って片持ちで4~7m程度張り出した特徴的な外観となっている。稜線と連続する建物形状を目指し、性能条件を満たしながら環境負荷の最小化を図り、それが結果として外観として現れるようにした。
建物高さの抑制、勾配屋根による日影の抑制や空調気積の削減,ガラス面の映り込み防止など、諸条件によりヴォリュームを削り出ししつつ、必要な室平面形、それに呼応する必要高さを繋ぐ形とし、結果として不整形な壁面のゆらぎを生み出している。
設計段階ではBIMを活用し、RhinocerosやGrasshopperにより検討した3次元形状をBIMに取り込み、建築計画と構造・設備とを合わせた検討を行った。
外壁は、収蔵庫・展示室など恒温恒湿・調湿空調が必要である2階の大空間を包み込む外断熱かつ2重外殻構造の被覆を形成し、寒冷地の厳しい屋外環境に対して安定した環境を担保した。さらにその外殻と内殻の間に空調排気を流す(カスケード空調)ことで、重要諸室の環境性能の向上を図っている。
構造では2重外殻構造部分を利用したトラス架構とし、2階床の片持ち先端部と接続して屋根から2階床まで包み込み、片持ち部や展示室のロングスパン部の鉛直変位を抑える計画としている。